東京高等裁判所 平成元年(行ケ)61号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否を検討する。
1 成立に争いない甲第一〇号証(手続補正書中の明細書)によれば、本願明細書には、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について左記のような記載があることが認められる(別紙図面一参照)。
(一) 技術的課題(目的)
本願考案は、自在平行定規のヘツド部におけるスケール角度表示装置に関する(第一頁第一二行及び第一三行)。
従来の自在平行定規のヘツド部には、水平スケール及び垂直スケールから成る直交定規が、不動支持部に回転可能に取り付けてあり、水平スケールが水平、垂直スケールが垂直となる位置を基準基線位置として、基線位置から所望の角度回転した位置にスケールを設定し得るように構成してある。そして、スケールの回転角度は、不動支持部に設けた分度盤、及びスケールに設けたバーニヤによるアナログ表示を読み取つたり、不動支持部とスケール回転部との間にエンコーダを設けデジタル表示の数値を読み取る技術が知られている。しかしながら、アナログ表示は細かい角度を迅速に読み取ることが困難であつて個人差が出る欠点があるし、デジタル表示は観念的には細かい角度まで把握し得てもアナログ量として視角的に把握できない欠点があつた。そして、従来、スケールの回転角度をアナログ表示及びデジタル表示の両方によつて表示する自在平行定規は存在しなかつた(第一頁第一四行ないし第二頁第一六行)。
本願考案の目的は、アナログ表示あるいはデジタル表示単独では一長一短ある従来の自在平行定規の問題点を解決する定規角度表示装置を提供することに存する(第二頁第一七行ないし第一九行)。
(二) 構成
前記課題の解決手段として、本願考案は、その要旨とする構成を採用したものである(第二頁第一九行ないし第三頁第五行)。
別紙図面一に示されている実施例は、設定しようとするスケールの回転角度をあらかじめ数値表示部にデジタル表示しておき、スケールの回転に伴う検出信号に基づく値と前記表示された数値とを比較し、一致表示を得てスケールの角度設定を行う自在平行定規である(第三頁第一二行ないし第一八行)。25はスケール支持体10に設けたケーシング部材であり、その上に、基線調整部材15に設けた分度盤に相対して指標目盛りを設けることによつて、スケールの回転角度をアナログ表示することができる。また、ケーシング部材25上には、スケールの回転角度をデジタル表示する数値表示部27が設けられる(第七頁第六行ないし第一五行)。
ACはオールクリアキイであつて、基線位置を変更して新たな基線位置を決定する場合に使用され、アツプ・ダウンカウンタ32、35及びメモリ回路41の一時メモリなど、すべてのブロツクの電気的な内容をクリアする(第一一頁第三行ないし第一二行)。
(三) 作用効果
本願考案の角度表示装置を採用した自在平行定規によれば、基線調整部材15に設けた分度盤とケーシング部材25に設けた指標目盛り、及び製図板上の図面の基線とスケールを合致させて基線位置を決定し、基線調整部材15を固定した後、オールクリアキイACを押してからキー入力部26に所望のスケール回転角度を入力すると、数値表示部27に、極性も含めた角度のデジタルが得られる。右デジタル表示によつて設定すべき回転角度を確認した後、スケールを回転操作すると、分度盤に対する指標目盛りの位置によつてスケールの回転角度を視角的に直接認識し得る一方、ヘツド軸4の回転量をアナログ検出器6の回転軸6aの回転量としても検知し、これをアナログ検出回路39によつて検出してA/D変換回路40によりデジタル信号に変換してコンパレータ38に送る。コンパレータ38には、前記のキー入力によるデジタル信号も送られているから、キー入力による回転角度信号と、スケールの実際の回転角度の検出信号とが一致すれば、コンパレータ38の一致信号によつて表示装置である発光素子28が点灯するので、従来のように細かい分度目盛りを視読しなくとも、スケールが所望の回転角度に設定されたことを直ちに認識し得る。要するに、設定すべきスケールの回転角度を極性も含めて数値表示部27に表示し、次いで、分度盤と指標目盛りとを見ながらスケールを表示装置28が点灯するまで回転操作するのみで、スケールを所望の回転角度に設定することができるのである(第一二頁第一一行ないし第一四頁第六行)。
製図作業者は、分度盤と指標目盛を見ながらスケールの回転操作を行い、細部の目盛は数値制御部により確認して設定することができる(第一四頁第一八行ないし第二〇行)。
以上のとおり、本願考案の角度表示装置を採用した自在平行定規によれば、スケールの回転角度をアナログ表示とデジタル表示の両方で明確に認識し得るから、スケールの回転角度の設定を極めて容易に行うことができ、製図作業の能率を高める効果を奏する(第一五頁第四行ないし第八行)。
2 一方、引用例にスケール回転角度をデジタル表示する数値表示部をヘツド部に設けた自在平行定規における定規角度表示装置が記載されていること、及び、自在平行定規のヘツド部にスケール回転角度をアナログ表示する装置を設けることが本件出願前に慣用技術であつたことは、原告の自認するところである。
そして、原告は、本願考案は自在平行定規のヘツド部にスケール回転角度のアナログ表示手段とデジタル表示手段の二つを併設することを特徴とするものであり、それによつて引用例記載の発明からは到底予測し得ない顕著な作用効果を奏すると主張する。そこで、まず、引用例記載の発明が奏する作用効果を検討するに、成立に争いない甲第二号証によれば、引用例には、
イ 「予め求められている設定値と作図ヘツド部の実際の操作状態とが一致したときに、一致表示を行うようにして、作図ヘツド部が所望の設定状態になつていることを表示することによつて、作図ヘツド部の操作状態を明確に表示するとともに作図作業の高能率化を図り得る」(第二頁右上欄第七行ないし第一二行)
ロ 「可逆カウンタ33は、キーボード18に設けた原点修正キー18Aの操作によつて、その計数内容が零にリセツトされ、図板1上の任意の位置を原点としてヘツド部5の横方向の座標位置を示す計数結果を出力し得る」(第四頁左上欄第八行ないし第一三行)
ハ 「二次基線補正回路51は、キーボード18の数値設定キー18Bのキー操作によつて演算回路60に入力される二次基線設定値が、二次基線設定キー18A(上述の原点修正キーと兼用されている。)のキー操作によつて二次基線メモリー52に記憶されると、上記の二次基線設定値を上記のデコーダ50からのBCコード信号で示される現在値より減算するような、減算機能を有する減算器によつて構成されている。(第六頁左欄下欄第一行ないし第九行)と記載されていることが認められる(別紙図面二参照)。
右ロは、横方向における任意の位置を原点とすること、すなわち、表示装置をオールクリアすることによつていずれの位置をも基準原点となし得ることを意味するものである。また、ハは、ヘツド部を現在位置から他の位置に変更するときも、変更角度(二次基線設定値)の入力によつて前記イの作用効果を奏するように回路が構成されていること、すなわち、ヘツド部の現在位置を基準として次の回転角度を設定し得ることを意味するものである。
3 そこで、原告が本願考案の作用効果として主張するところを、引用例記載の発明が奏する作用効果と対比しながら検討するに、
<1> 一つの状態を表示するために二つの表示手段が存するとき、両表示手段を併用すればそれぞれの表示が可能であることは当然のことであつて何ら格別な事項ではなく、その場合に二つの表示手段のうちいずれかを使用するかは、使用目的に応じて適宜に選択し得ることにすぎない。
原告が本願考案の作用効果として主張する<1>(すなわち、一つのスケール回転角度を、数値表示部においてデジタル表示すると共に、目盛表示装置においてアナログ表示することができる。)も、デジタル表示手段及びアナログ表示手段がそれぞれ有している機能の単なる和にすぎず、一つの角度表示装置に両表示手段を組み合わせることによつてスケール回転角度の設定が特に効率的になし得ると認めることはできない。
<2> 一つの装置に相互に関連がない二つの表示手段が存するとき、両表示手段の表示を同一基準に基づく表示としなければならない必然性はなく、それぞれが別個の基準に基づく表示をするようにも構成し得ることは、両表示手段が相互に関連がないことの当然の帰結である。そして、審決がいうように引用例記載の発明(デジタル表示手段)に慣用技術(アナログ表示手段)を付加する場合であつても、両表示手段を相互に関連があるものとしなければならない理由はないから、それぞれに別個の基準に基づく表示をさせ得ることは明らかである。
したがつて、原告主張の作用効果<2>(すなわち、二つのスケール回転角度を同時に表示することができる。)は、当業者ならば容易に予測し得た事項にすぎない。詳説すれば、<2>a(すなわち、数値表示部にあらかじめ所望角度をデジタル表示しても、スケールの現実の回転角度は目盛表示装置のアナログ表示で逐次知ることができる。)は、要するにデジタル表示装置及びアナログ表示装置のそれぞれに別個の基準に基づく表示をさせるという前記の当然の事項にほかならないし、<2>b(すなわち、一次基線位置からのスケール回転角度をアナログ表示すると共に、二次基線位置からのスケール回転角度をデジタル表示できる。)も、両表示手段の基準、すなわち基線位置をそれぞれ別個に設定し得るということにすぎない。そして、二次基線位置からのスケール回転角度をデジタル表示できるということは、前記の引用例記載の発明が奏する作用効果ロあるいはハと同一のものである。
なお、原告は、数値表示部のデジタル表示は電気的に容易にクリアできるから二次基線位置を容易に設定できる旨の主張もしているが、右は、デジタル表示を簡易にオールクリアできれば次のデジタル表示を迅速になし得るということにすぎず、格別の技術的事項ではない。
4 以上のとおりであるから、原告が本願考案が奏する作用効果として主張するところは、当業者ならば容易に予測し得た範囲の事項にとどまるから、本願考案は引用例記載の発明に慣用技術を付加したものにすぎず両者は実質上同一のものであるとした審決の判断に誤りはない。
三 よつて、審決の違法を理由としてその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編注1〕本願考案の要旨は左のとおりである。
スケールの回転角度をデジタルに表示する数値表示部をヘツド部に設けた自在平行定規において、
該ヘツド部に、スケールの回転角度をアナログ的に表示する、分度盤と指標目盛りとから成る、目盛表示装置を併設したことを特徴とする、
自在平行定規のヘツド部における定規角度表示装置(別紙図面一参照)。
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面一
<省略>
<省略>
<省略>
別紙図面二
<省略>
<省略>